2013年 7月号
● 税 務 ― 法人成りのメリットとデメリット ―
法人成りとは、個人で行っている事業を法人に移行することですが、メリットとデメリットがあるので、税負担の比較はもちろん、経営の安定化や事業承継への影響を総合的に判断する
必要があります。
Ⅰ 法人成りのメリット・デメリツト
図表1にメリット(13個)、デメリット(5個)を掲げましたので、これらを十分に検討して、
法人成りの選択を考えると後々間違いないと思います。
Ⅱ 法人成りが有利な具体例
(1)出張手当
会社では、就業規則において出張規定を作成し、役職や距離に応じた出張手当を決め
ておけば、会社の費用となり、消費税法上の課税仕入として仕入税額控除も適用されま
す。しかも受け取った社員の側も非課税ですが、個人事業では自分が自分に出張手当を
支払うという考え方がありません。
(2)慰安旅行
法人の場合、旅行期間が4泊5日以内、旅行費用は1人10万円以下など一定の条件
を満たせば、法人の福利厚生費として認められますが、個人事業の場合は、仕事に協力
してくれた家族であったとしても家事関連費として事業の費用とすることは難しいです。
(3)役員社宅
個人事業の場合、自分の住居は事業の用に供していないと費用になりませんが、法人
は取扱いが異なります。
法人が賃借し、これを社宅として社長に貸付ければ、社長は家賃の半分(小規模住宅の
場合はさらに低額)を支払えば税務上の問題なく、差額は会社の費用とすることができま
す。
(4)配偶者控除・扶養控除
経営者の家族へ支払う給与については、個人事業の場合、たとえ103万円以下であっ
ても、配偶者控除又は扶養控除を受けることができませんが、法人になると、103万円
以下であれば、配偶者控除又は扶養控除を受けることができます。
☆ 法人成りのメリット・デメリット
1メリット
① 税率構造の違いを利用して税負担を下げることができる。
※個人事業者の所得が増えてくると、法人化した方が有利になってきます。所得税や
法人税の算出過程は複雑で、報酬の取り方や会計処理の方法によっても違ってくる
ので、一概に損益分岐点を示せませんが、参考に税率表を下段に示しておきます。
○所得税の税率 課税総所得金額 税率 195万円以下の部分 5% 195万円超330万円以下の部分 10% 330万円超695万円以下の部分 20% 695万円超900万円以下の部分 23% 900万円超1,800万円以下の部分 33% 1,800万円超 40% 4,000万円超(平成27年~) 45%
○法人税の税率 所得金額 資本金1億
円以下の会
社の税率資本金1億
円超の会社
の税率年所得800万円
以下の部分15%
(16.5%)25.5%
(28.05%)年所得800万円
超の部分25.5%
(28.05%)
(注)平成24年4月1日~27年3月31日までの間に開始する事業年度については
復興特別法人税が10%付加され()内の税率となります。
② 社長の給与が経費となり、給与所得控除が適用される。
③ 赤字を個人(3年間)より長い9年間繰り越すことができる(青色申告の場合)。
④ 消費税が一定期間免除される。
⑤ 経費にできる範囲が広くなる(退職金、生命保険、福利厚生費等)。
⑥ 事業承継に便利(個人の死亡で廃業とならない)。
⑦ 原則として有限責任となり、リスクが軽減される。
⑧ 公開性が高まるため、社会的信用が増大する。
⑨ 事業年度が12月決算以外も選択でき、繁忙期を避けることができる。
⑩ 資金調達や補助金が受け易くなる。
⑪ 経営者やその家族も社会保険に加入することができる。
⑫ 減価償却が任意償却となっている。
⑬ 元入金処理がないため、貸付金又は借入金としてけじめのある経営ができる。
2デメリット
① 初期費用として、設立費用がかかる。
② 決算申告が個人と比べて複雑化するため記帳等のコストがかかる。
③ 従業員の社会保険料の負担が増える。
④ 赤字でも税金(均等割最低7万円)が発生する。
⑤ 交際費について、事業用であっても金額に制限が設けられている他、一定割合が
損金不算入となる措置(平成25年4月1日~平成26年3月31日までの間に
開始する事業年度は特例あり)がある。